#112 映画音楽

1

【 作曲家・梶浦由記さんが作品との関わり方や作曲方法について語る 】
http://gigazine.net/news/20131108-yuki-kajiura-20th-machiasobi11/

この人は有能な作曲家と思うが、本当のことを言ってしまうと、こういう分業体制があんまり好きじゃない。
映画音楽は、それっぽいものを後からくっつけるのではなく、監督がどこからかひっぱり出してきた曲をぶつけるほうが、緊張感があって面白い。
2
t.A.T.u. - All The Things She Said

たとえば、この歌は2002年の世界的なヒットソングだが、これがまだ全然はやっていないころ、 Lukas Moodysson というスウェーデンの映画監督がどこからか見つけてきて、 ”Lilja 4-ever” という映画に使った。

話の筋は、社会主義政府がつぶれたロシアで一家離散して、エストニアのいなかの団地でひとり暮らす16歳の娘が、スウェーデン人のやさしいお兄さんに会い、ストックホルムに連れられていくが、なんと行き先は売春宿だった、というもの。

社会主義全体主義→万人の万人に対する闘争→資本主義的全体主義という、20世紀末ロシア社会の劇的な変化を映画がうまく切り取っていて、荒廃した田舎町から少女を乗せた男の車が抜け出していく場面に、この曲がぴったり合っていた。
3
そういう「偶然かみ合った!」って瞬間がいい。

#111 合理性って?

1

【 不良資産を利益に変えたスイスの銀行救済劇 】
http://www.swissinfo.ch/jpn/detail/content.html?cid=37216430

スイスすげえ。勝因は、サッサと手を打った点にある。
金というのは信頼のあるところに集まるので、信頼を高めるために「最も合理的な手を」「どこよりも早く打つ」これが正解でした。
スイスはいつも、国際政治的な合理性を嗅ぎ取るのがうまい。地の利がある。
2
ここでいう合理性というのが厄介。
合理性というと、普通いわゆる数理的・論理的・自然科学的な合理性を連想するが、実のところ、何らかの意味で合理的な行動というのは、理論の体系(言説システム・規範の体系)の数だけ存在している。

3
この世界に秩序をあたえている多種多様な合理性を類型化すると......

1. 数理的・論理的・自然科学的な合理性(経済理論もこれに含まれる)
2. 政治的な合理性(国際政治的、国内政治的、ムラ社会的など、政治をおこなう集団の範囲のとり方によって、複数の合理性が生じる)
3. 宗教・慣習的な合理性

代表的なものは、このあたり。
4
上にある「慣習的な合理性」って変な言葉だけど。
それは、こういうときに出現する。

母「畳に土足であがってはいけません」
子「どうして?」
母「そういうふうに決まってんの」

別の言い方、たとえば、

母「畳に土がついて汚くなるから」

ってのは、自然科学的な合理性にもとづく説明だが、これは本質的ではない。
靴底をていねいに拭けば土足で畳にあがっていいということにはならないから。

#110 歯医者まんだら

どこの町にもいろんな歯医者があって、おもしろい。
過当競争の市場を生きのびるために、いろんな戦略をとっている。
人生いろいろ。
類型化すると...

1. 町の歯医者さん
予防に力を入れている。価格の安い保険内治療が主。
頼めば保険外治療もやってくれる。
固定客を中心に、半年か1年ごとの定期検診をしながら、手がたく経営を続けていくつもりだろう。
先代から診療所を引き継いだ人が多い。
また、新規開業したところでは、賃料あたりの売上が上がるように、また機材・道具の単価あたりの売上が上がるように、5人以上の歯科医を雇っているところもある。美容院の業界ではけっこうある方式。
目をひくのは、東京医科歯科大で長いこと教鞭をとってから開業し、今も研修生を受け入れながら、町の歯医者の理想形を作ろうとしている人。この人はたぶん良心的だ。

2. 歯医者センセイ
高慢な歯医者。
地元の学校検診や歯科医師会の役員などを歴任している。
ゴルフ好き。酒豪。
最近は保険内治療だけやっていても儲からないので、持ち前の威圧感を生かして、価格の高い保険外治療をすすめている。
腕は人それぞれ。
たぶん田舎にいくほど、このタイプが多い。

3. 歯づくり職人
歯科医だけでなく歯科技工士の免許も持っていて、その場で型をとって歯を作ってくれる。
ものすごい器用な仕事。
かわいい歯科衛生士も愛想のいい歯科助手もやとわず、歯科技工士の外注にも頼らず、ひとりきりで仕事をすすめている。硬派。

4. 歯大工
専門は口腔外科。
歯をそうじしたり詰め物を入れたりするような繊細な作業は苦手。
親知らずを抜くとか、複雑骨折でボキボキに折れた歯を作り直すとか、大がかりな作業が得意。
武道やってる人に聞くと紹介してもらえる。

5. 機材オタク・広告オタク
きわめて高価な最先端の機材を購入し(大体そういうものは大して役に立たない)、それを売りにして患者をあつめる方法。あるいは、大がかりな広告を打って患者をあつめる方法。広告にはいろんなものがあり、いわゆるマスメディア4媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)のみならず、今では、「この名医を見よ!」というような題名の書籍、見栄えのするウェブサイト、中立を装ったネットの書き込み(ステルスマーケティング)など、至るところに広告がある。機材代・広告代を出すために、いくつも診療所をつくって歯科医をぐるぐる回しているところもある。

6. 審美歯科・老人歯科
エステサロン・美容整形にハマっている人や、痴呆症で老人ホームに入っている人など、わけあって合理的な行動が取れない人を対象に、あまり意味のない治療や、むだに高額な治療をする。

7. 歯壊者
穴をあけては詰め物をして、健康な歯をもった人をインプラントまで追い込む。
オレハ コフイフ ニンゲンダ

今は歯科医が多すぎて需給バランスが悪いので、歯学部は人気がなく、私立では偏差値30の学校もあるそうだ。
そういうところの出身者が、一攫千金を狙おうとすると、「5. 機材オタク・広告オタク」「6. 美容歯科・老人歯科」「7. 歯壊者」というような、危険な賭けに出ることもあるようだ。

ほんとに人生いろいろ。

#109 Stairway to XX


1
仙台のアイドルちゃんの生態をまわりの連中がネットにかきこんだ話をよむと、中学の校内でエッチする場面があって、たいへん盛り上がって楽しそうだ。
もっかい中学に入ることがあったら是非やりたい。
ああいうの、やったことないけど見たことはある。
2
小学校からの同級生ミヤは、町に1軒だけあったレコード屋の娘だが、中学になってからアツタという隣の小学校からきた体が大きくてギターがうまくて気のいいやつとつきあって、勝手に2人で学校を抜け出したりして軽く鼻つまみ者になっていた。
普通の連中がラルクとかゆずとか言ってるとき、アツタだけレッドツェッペリンを聴いていたので、きっと2人で音楽の話をしていたんだろう。
雨の日に学校さぼって、暗くした彼氏の部屋にこもって、ロウソクの火をつけて、レコードをかけて。
こう書いているだけで熱気がむんむん伝わってくる。
3
で、中学3年の後半になると、誰がどのへんの高校にいくか、または中卒で就職するか、将来の社会階層がだいたい決まってくるので、教室のなかは、いずれ大きな町にでて出世していくやつと、地元にずっと残るやつの集団に分かれる。
進学組はまいにち勉強の話をして、地元組はまいにち趣味の話をする。
あっちの話し声がきこえないほど熱心にね。
4
そういう時期に、たまたま科学室へ忘れ物をとりにいったら、実験用の机の上にミヤが寝そべっていて、アツタがその上に乗っかっていた。
うわっ。これが社会科学かっ。
5
しばらくすると、アツタの好き勝手な態度が気に食わないと不良チームに目をつけられるようになった。
不良チームは、日雇い労働者の斡旋業をしている怖い人の息子(見た目は三木道三)が最大勢力を率いていて、細かいことは知らないがアツタは因縁つけられてボコボコにされたらしい。
集団でバットで叩かれて気絶したとか。顎の骨を折られたとか。
それっきりアツタもミヤも出てこなくなった。
とはいえ、うちの中学は、どこのクラスにいっても常に1割くらい空席があったので、最初そんなオオゴトとは思わなくて。あとで噂をきいてびっくりした。
6
しばらくしてミヤの父さんの店はなくなった。
かなりの借金があったとかで母さんがミヤを連れてどこか知らない町に出ていった。
母さんは東京のほうの人だったとか。
7
まぁ、こんなに激しいシーンがある人ばかりではないが、人生の分岐点はある日突然やってくる。

#108 本屋さんから町の雰囲気をみる

1
「静岡の谷島屋さんってどんな本屋さんですか?」ときかれたら、「県庁の職員がよく行く店だよ」と答えるだろう。
簡単に説明すると、古典的な名作(太宰治の小説、小林秀雄のエッセイ、司馬遼太郎の時代小説、郷土の偉人伝など)が店のベースをなして、目立つところには、書評に載った本、テレビで話題の宇宙飛行士の話、大河ドラマをみて歴史をまなぼう、大きな賞をとったピアニストやスポーツ選手の人生秘話、現代政治よもやま話、地元や東京のうまい店の案内、などが乗っかる。
たとえるなら、文藝春秋って月刊誌をインスタレーションにしたような空間だ。
まぁ、これがいわゆる地方都市。
2
これと比べれば、浜松の谷島屋さんのほうが、店のなかにある品物の質的なバラツキは大きい。
店のベースにあるのは、みのもんた健康法、バイク川崎バイク、もてるメイク、やる気の出る営業、株で勝つ、それから病院学校工場土木の現場マニュアルだが、なぜかミシェル・フーコー著作集やくそむずい数理解析の本が横にならんでいる。
これはおそらく、客の買い物の傾向を反映している。
3
誰がむずかしい本を読んでいるのか?
知っている例をあげると、京大出身でレーザー光線をあつかう技術者をしているTさん。
休日は湖畔にある温泉リゾートにこもって、フレーゲからの分析哲学を原書でまなんでいる。
ほかには、楽器会社で半導体をあつかう技術者をしているSさん。
休日はオーケストラで笛を吹いては楽団の仲間と海外文学や日本文学の新刊を読みこんでいる。
両方ともポルトガル語をまなぶ会で知り合った。
このように、ちゃんとした人がまったくいないわけじゃない。特に技術者。

#107 ギャスパー・ノエ『カノン』

カノン [DVD]

カノン [DVD]

ギャスパー・ノエ『カノン』って映画をみた。
このごろここでよくやってる、誰かについて何かを語るとき、三人称を使いながら、まったく共感をはさまない、という語り方が、この映画でも多く使われている。
人体模型を作るようなやり方。
破壊衝動。
個人主義の牢獄。
分析的精神の独居房。
現代都市のおっさんの孤独。
アモラルで、ありきたりな中年の危機で、幼稚とも言えるけど、映像表現としては印象に残った。
すごいクローズアップ。

#106 マンダラ的 - カバラ的

1
磯崎新『手法論の射程 - 形式の自動生成』 なる本をチラチラ読む。
マンダラ的 - カバラ的 という対立概念がおもしろい。
2
世界を、絵のように固まった個物が見立てによって次々と羅列されていくものとしてとらえるのが、マンダラ的な世界観。
それに対して、世界を構造的に把握し、つまり、実はすべてがつながっていて、個物は他の個物すべてと或る比率をもった関係の結び目として現れる、というふうにとらえたのが、カバラ的な世界観。
3
数年前、ゲーム理論という応用数学の1分野をちょっと詳しくまなんでいて、そこにはイスラエル人研究者がなぜか異常に多くて、これは明らかにユダヤ教の現代的な変形だと思ったのだが、なるほど、それはカバラ的と言える。
4
一方、たとえばコミックマーケットのような場では、見立て(類推)によって次々とあたらしい個物が生成するという意味で、そこにはマンダラ的な世界観がひろがっている。