#108 本屋さんから町の雰囲気をみる

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「静岡の谷島屋さんってどんな本屋さんですか?」ときかれたら、「県庁の職員がよく行く店だよ」と答えるだろう。
簡単に説明すると、古典的な名作(太宰治の小説、小林秀雄のエッセイ、司馬遼太郎の時代小説、郷土の偉人伝など)が店のベースをなして、目立つところには、書評に載った本、テレビで話題の宇宙飛行士の話、大河ドラマをみて歴史をまなぼう、大きな賞をとったピアニストやスポーツ選手の人生秘話、現代政治よもやま話、地元や東京のうまい店の案内、などが乗っかる。
たとえるなら、文藝春秋って月刊誌をインスタレーションにしたような空間だ。
まぁ、これがいわゆる地方都市。
2
これと比べれば、浜松の谷島屋さんのほうが、店のなかにある品物の質的なバラツキは大きい。
店のベースにあるのは、みのもんた健康法、バイク川崎バイク、もてるメイク、やる気の出る営業、株で勝つ、それから病院学校工場土木の現場マニュアルだが、なぜかミシェル・フーコー著作集やくそむずい数理解析の本が横にならんでいる。
これはおそらく、客の買い物の傾向を反映している。
3
誰がむずかしい本を読んでいるのか?
知っている例をあげると、京大出身でレーザー光線をあつかう技術者をしているTさん。
休日は湖畔にある温泉リゾートにこもって、フレーゲからの分析哲学を原書でまなんでいる。
ほかには、楽器会社で半導体をあつかう技術者をしているSさん。
休日はオーケストラで笛を吹いては楽団の仲間と海外文学や日本文学の新刊を読みこんでいる。
両方ともポルトガル語をまなぶ会で知り合った。
このように、ちゃんとした人がまったくいないわけじゃない。特に技術者。