#110 歯医者まんだら

どこの町にもいろんな歯医者があって、おもしろい。
過当競争の市場を生きのびるために、いろんな戦略をとっている。
人生いろいろ。
類型化すると...

1. 町の歯医者さん
予防に力を入れている。価格の安い保険内治療が主。
頼めば保険外治療もやってくれる。
固定客を中心に、半年か1年ごとの定期検診をしながら、手がたく経営を続けていくつもりだろう。
先代から診療所を引き継いだ人が多い。
また、新規開業したところでは、賃料あたりの売上が上がるように、また機材・道具の単価あたりの売上が上がるように、5人以上の歯科医を雇っているところもある。美容院の業界ではけっこうある方式。
目をひくのは、東京医科歯科大で長いこと教鞭をとってから開業し、今も研修生を受け入れながら、町の歯医者の理想形を作ろうとしている人。この人はたぶん良心的だ。

2. 歯医者センセイ
高慢な歯医者。
地元の学校検診や歯科医師会の役員などを歴任している。
ゴルフ好き。酒豪。
最近は保険内治療だけやっていても儲からないので、持ち前の威圧感を生かして、価格の高い保険外治療をすすめている。
腕は人それぞれ。
たぶん田舎にいくほど、このタイプが多い。

3. 歯づくり職人
歯科医だけでなく歯科技工士の免許も持っていて、その場で型をとって歯を作ってくれる。
ものすごい器用な仕事。
かわいい歯科衛生士も愛想のいい歯科助手もやとわず、歯科技工士の外注にも頼らず、ひとりきりで仕事をすすめている。硬派。

4. 歯大工
専門は口腔外科。
歯をそうじしたり詰め物を入れたりするような繊細な作業は苦手。
親知らずを抜くとか、複雑骨折でボキボキに折れた歯を作り直すとか、大がかりな作業が得意。
武道やってる人に聞くと紹介してもらえる。

5. 機材オタク・広告オタク
きわめて高価な最先端の機材を購入し(大体そういうものは大して役に立たない)、それを売りにして患者をあつめる方法。あるいは、大がかりな広告を打って患者をあつめる方法。広告にはいろんなものがあり、いわゆるマスメディア4媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)のみならず、今では、「この名医を見よ!」というような題名の書籍、見栄えのするウェブサイト、中立を装ったネットの書き込み(ステルスマーケティング)など、至るところに広告がある。機材代・広告代を出すために、いくつも診療所をつくって歯科医をぐるぐる回しているところもある。

6. 審美歯科・老人歯科
エステサロン・美容整形にハマっている人や、痴呆症で老人ホームに入っている人など、わけあって合理的な行動が取れない人を対象に、あまり意味のない治療や、むだに高額な治療をする。

7. 歯壊者
穴をあけては詰め物をして、健康な歯をもった人をインプラントまで追い込む。
オレハ コフイフ ニンゲンダ

今は歯科医が多すぎて需給バランスが悪いので、歯学部は人気がなく、私立では偏差値30の学校もあるそうだ。
そういうところの出身者が、一攫千金を狙おうとすると、「5. 機材オタク・広告オタク」「6. 美容歯科・老人歯科」「7. 歯壊者」というような、危険な賭けに出ることもあるようだ。

ほんとに人生いろいろ。