#115 工場みたいなところ


軍隊、病院、学校、工場、そういう近代的な機構のすべてが苦手なのだが、これを考えるといつも同じ記憶にたどりつく。丘のむこうに、四角い箱の形をした大きな建物がある。あれが病院。どうやらとんでもない病人たちが隔離されているらしい。うちの母親が脳の病気で長いこと入院していて、小学2年のころ、学校帰りにランドセルのままバスで通っていた。途中で一度のりかえて片道30分。部屋の入口のところに患者の名前とともに青黄赤のシールが貼られていて、毎日みるたびに黄色になったり赤色になったりする。こんこんとねむる母親の枕元で宿題をして、終わったら本をよんで、夕暮れになって。看護婦さんがきて。待合室に出されて。ときどき母親が目をさます。体じゅうに変な機械をとりつけられていて見るのもおそろしい。包帯ぐるぐる巻きの顔をこちらへ向けて、「はす向かいの娘さんは虫歯のバイキンが体じゅうにまわって、今日どこかへ運ばれていったよ」なんて話をきく。夜がきて、父親が迎えにくる。言葉もなく。スーパーへ寄って鍋焼きうどんを買って、誰もいない家にもどる。ぼんやりして寝て、また朝がきて。