#90 科学技術をよく考える

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伊勢田哲治, 戸田山和久ほか『科学技術をよく考える』って名大の理系院生向けの本をすわりよみ。
最近の科学技術について賛否の分かれる問いを立て、賛成・反対両方のまとまった議論を展開している。
その上で、さて君はどちらの味方につく?みんなで議論してみよう!という文例集のようなものだった。

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これ、結局のところ「充分に論理的に構成された議論が複数あるとき、論証の質だけで優劣を判断することはできない。そういうときは、前提となる価値判断をどう考えるか、によって、複数の正しい結論がありうる」という話になる。
こうやって複数の正しい結論がならんだとき、たとえば社会的選択理論によると、普遍的に正しい決め方がみつかる...かと思いきや、そんなものはない、というきわめてクールな結末にいたる。残念でした。

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では、どうやって社会的決定をくだしたらいいのか?
政治家が決めるのか?法律家が?行政官が?宗教家が?
あるいは多数決のような明解なルールを任意に選んで投票で決めるか?
… と考えると、わからないの一言。
結局、いつもどおり自称「有識者」があつまって、いわゆる「空気」で決めることになるのだろう。
この決め方がわるいと言える理由は、いつまでたっても決定のもとになる原理というか価値基準が明文化されない点にある。