#72 異郷幻想と芸術作品

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観光のまなざし―現代社会におけるレジャーと旅行 (りぶらりあ選書)

横浜美術館で「Welcome to the Jungle 熱々!東南アジアの現代美術展」 】
http://bit.ly/13L49tK
「東南アジアの現代美術の面白さは、各国の接点と相違点、それら双方が透けて見えてくるところ」

「東南アジアの現代アートシーンはどうこう」「西アフリカの現代文学シーンはどうこう」「アラブの現代音楽シーンはどうこう」「インドの現代娯楽映画シーンはどうこう」みたいな話のつまみ食いって、全部観客のつまらない異郷幻想の押しつけ、もっと言えば観光だ。*1
万国博覧会、あるいは人間動物園に似たものを感じる。
ある芸術作品が作家の属する文化の影響を受けていることは多いが、その作品が作家の属する文化の紋切型になっているとは限らないし、こういう展覧会をひらいて観客が作家に紋切型を強いるのはおかしい。*2
沖縄出身の画家がシーサーを描かなくてはならないというのは、変だ。
沖縄や東南アジアや西アフリカについて知りたいなら、地域研究や国際政治や国際経済や世界史のような話をまなべばいい。
芸術作品は、そういったものを説明するための事例ではない。*3
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芸術作品は基本的に作品そのものに注目すべき。
作品を見ていて必要があれば、作品間を結びつける存在としての作家、作家のひらめきの源になった文化や社会、文化や社会をかたちづくる歴史、というように理解をひろげていけばいい。

*1:そのジャンルにどっぷり入れこんで、巨大な目録をつくることに没頭しているなら、それはオタク的な蒐集・分類という行為だから、異郷幻想や観光とはちがう。米沢嘉博さんのやった行為だね。

*2:紋切型そのものではなく、紋切型への冷笑という題材があるが、これもまた形を変えた紋切型だ。

*3:文学かぶれだけど文学的センスのないやつが、こういう安易な一般論に走る。