#65 文句の出ないものづくり?


1

Togetter 【 斉藤和義氏「ずっとウソだった」に対する,いきものがかり水野良樹リーダーの意見 】
http://togetter.com/li/122633
「僕は音楽に政治的な主張、姿勢(斉藤さんの場合は、怒りでしたが)を直接的に乗せることについて、とても懐疑的な人間です。(中略)音楽にあからさまに主義主張を乗せることが、本来複雑な因子が絡み合って構成されている問題を、むやみに単純化する危険性について危惧している。」

2
たとえばトヨタの工場へ行くと、「不具合をどんどん見つけてカイゼンしよう」みたいなことを毎日やっている。
これは良いことと言えるだろうか?
「自動車の生産に限って言えば、これは良いことだ」とは言えると思う。
説明すると...
自動車というのは一般に道具である。
道具というのは、「何かをしたいという目的」と「それをやりたい人」の媒介となる。
シュッと切れる包丁。パッと光る電球。
だから、道具は「何かをしたいという目的」と「それをやりたい人」の媒介としてどれほど役に立つかという実用性を基準にして、その価値に序列が与えられる。

実用性とは何か?
「ある品物を道具として使ったとき、期待した機能を良く果たす」という定義でよかろう。
道具は常に実用的であるべきだ。
ブレーキをかけても止まらない車は、車として用をなさない。

そうすると、「道具として使ったとき、期待した機能を果たさない」場合についての情報をできるかぎり集めて、ひとつずつ不具合をつぶしていく、というカイゼンの手法は、道具である自動車の生産には役立つ、と言える。

3
では、芸術作品は?
芸術作品は道具ではない。
それは何か別の目的のための手段ではない。それ自体が目的だ。*1
だから、「100人のうち99人が文句を言って1人が絶賛した」という音楽と「100人のうち0人が文句を言って0人が絶賛した」という音楽を比べると、前者のほうが意味があると言える。

4

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道具と芸術作品を混同するとどうなるか?
ここまで書いたような、ものづくりの現場で使われている「不具合をみつけてカイゼンする」という行動規範、「文句が出たら減点する」という価値体系を、芸術作品の価値判断にあてはめると、「本来複雑な因子が絡み合って構成されている問題」をさけて、まったく「単純化」なんてしなくても最初から単純な、誰もが納得できるメッセージ、「恋人に好きだと言おう」「親子のあたたかい関係を大事にしよう」というような無難な徳目をうたって、どこからも文句の出ない状態になった歌が、大衆音楽の最高峰ということになる。
つまり、いきものがかりが、日本のトップバンドということになる。

5

小田嶋隆ネット弁慶が街中に現れた理由 】
「ネット時代の言論弾圧は、「めんどうくささ」という形でわれわれの前に立ちはだかることになっている。 」
(http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20130221/244049/?P=5)

たとえば孔子の言う「中庸」って、「どこからも文句の出ない状態」と同じかな?
どこからも文句の出ない歌というのは、「めんどうくささ」を避けたい大組織が、時間を埋めるために使うための道具だろう...

6

ミューザックは芸術ではなく科学的管理法なのだ。
(http://www.kanshin.com/keyword/331926)

*1:この考えは、ハイデガー『芸術作品の起源』からまなんだ。