#56 りっちゃん

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今をときめくアイドルグループに川栄李奈という子がいる。
テレビで偶然みかけた様子がちょっと心にひっかかったので、その子についてのネットの書き込みを調べてみた。
すると、そこには、最近のかわいらしい普段着の写真だけでなく、水着の写真、ちいさな胸の谷間があらわになった写真、「おバカNo.1」に輝いたときのしたり顔、17歳になっても幼稚園児の格好をさせられている写真があり、あざといと思いつつ、かわいらしい小悪魔にどうしようもなく惹かれてしまうファン心理と、それを巧みにあやつる彼女の計算高くて健気な姿が浮かんできた。
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さらにつづけて見ていくと、数年前の写真として、今とはまったく顔かたちの異なる顔をみつけた。
歯並びはぐちゃぐちゃ、鼻はまがっていて、口元はひきつっている。輪郭も今の丸顔とはことなる卵形で、肌の色もかなりの地黒。「うわぁ... 外で遊ぶのが好きだったのかな... 小さい頃はこんなふうだったのに、みんなに見られることに憧れて、もっと人気がほしくて、人体改造をくりかえして、今はあんなになっちゃったんだぁ...」などということを考えた。
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さらに想像がふくらんで、プロデューサーや関係者から整形手術をすすめられる場面、愛人関係をむすんでいる太い客に整形のことを打ち明ける瞬間、整形したあと初めて太い客と会うときの感情のもやもや、新しい顔を男にみせたら思ったほどの反応がなかったときの大きな失望、その顔がやっぱり気に入らなくて、もう一度やってみることを決めるときの承諾書に名前を書くときの不安と希望の入り混じった気持ち、この顔がたまらなく好きという別の男に甘い言葉をかけられたときの胸のドキドキ、新しい男とカラダを合わせた熱帯夜、もう気持ちは移っているのに古い男に何度も電話で呼びつけられたときの憂鬱、酒に酔っての男の暴力、そこから逃げるようにしゃぶりついた新しい男に抱かれてねむる安堵感、しかしカラダを許した途端に変わってしまった男のそっけない態度、しばらくして自然消滅のような形で疎遠になってしまったこと、やがて、あまりにもさびしい夜がきてケータイ電話に手を伸ばす...というような一連のアレを想像して、ずいぶん興奮したけれど、どうやら、数年前の写真として載っていた女の子は、松村香織だった。