(バークリーの)音楽史の授業で、白人女が講師だったことがある。教壇で彼女は「黒人がブルースを演奏する理由は、貧しくて綿花を摘まなければならないから、悲しくて、その悲しみがブルースの根源となった」みたいなことを言った。
冗談じゃない。オレはすかさず手を上げて、こう言ってやった。
「ぼくは東セントルイスの出身で、父は歯科医なので金持ちですが、でもぼくはブルースを演奏します。父は綿花なんか摘んだことがないし、ぼくだって悲しみに目覚めてブルースをやっているわけじゃありません。そんな簡単な問題じゃないはずです」
そのスケは真っ青になって、それ以上何も言えなかった。
マイルス・デイビス自叙伝』(p.88)