何もない、ということ。
日々が続いていく、ということ。
ひとつずつ、思い出を吹き消して。
久しぶりに煙草を吸ってみた。
煙草ばかり吸っている、そんな時期もあった。
東京駅のそばにある舗道を歩いていたら、白い煙はふっとどこかへ消えていってしまった。
冬の陽ざしと強い風には奇妙な開放感があって、全てを吹き飛ばしてくれそうな気がする。
帰り道の寒かったこととか、木いちごを摘んで食べたこととか、鞄の中から鍵を探すときのちょっとした不安とか、ひんやりした玄関口とか、窓から見える夕焼けとか、石油ストーブの匂いとか。
そんなことを思い出しながら、この1年を振り返ると、どの1年を取ってみても同じことなのだろうけれど、いくつかのものを手に入れ、いくつかのものを失った、ということになる。
失ったものについては、今更挙げるまい。
手に入ったもののうちいちばん大きかったのは、同一人物の同一時点において、劣等感と優越感が並存する事態がありうる、という認識だろう。
自分の課題としては、それらを上手に手繰り寄せて操っていく、ということだろうか。
思い返してみて、自分の1年は「成長」ではなかった。
せいぜいがモードの変遷といったところなのだろう。
とはいえ、帰り道さんざん迷った挙句見知った通りへ出たところにある信号機に照らされて青白く光っていた街路樹の枯れ枝はいつにもなく綺麗で、ああこんなところにもあなたはいたんだね、そんなものが折り重なって生きているのだろう、そう思う。

それでは、よいお年を。