月の灯

窓ごしに満月が近いのが見える。
あれが僕にとっては唯一まともな灯りであって、
それ以外の灯りは、基本的に全部芝居がかっている。
梅雨どきは月が雲に隠れてしまうので、なんだかどうにも落ち着かない。


=○=


本を手に取る。
最近話題の本。
青山七恵『窓の灯』


=○=


カーテンが揺れている。


「生きてるって、感じがしませんか」


=○=


幾つもの言葉の流れを辿りつつ最後のページに行き着いたら、
途端、何かに撞かれたような気がした。
一瞬の静寂、そして…


小さな音楽は次第にその旋律を速めていく。


=○=


蒸し暑い夜更け、渦のようなものに誘い込まれた。
また住宅街を横切っていく。
カーテンの透けてる部屋。
いやらしい眼をして。
覗き込んでみたら。
きっと。

きっと誰かが何かを覗きこんでいるところが見えるだろう。


=○=


あらら…ふと見上げると、月はまた雲に隠れてしまったよ。ねぇ。