忘れてしまうこと。
ある男がかつて私に言ったこと。
自分は今20歳で、しかし20歳になった瞬間から時間の速さの2倍の速度でものを忘れている、つまり1日に2日分の過去を失っている。
そのため、30歳になったら何の記憶もなくなるだろう。
彼はそのことにおののいている。
=○=
彼はひとつ認識の間違いを犯している。
時間の記憶は等間隔ではありえないのだ。
記憶は知らない間に失せている。
1年前のこともうまく思い出せない。
嬉しかったことも、淋しいことも。
このまま全てを忘れ去ってしまうのか?
=○=
どろんとした気分。
ミシェル・ウエルベック『素粒子』
読みながらあまり関係のないことを考えている。
人は物語を持たずして生きていけるか?
意味の剥奪に、どこまで耐えられるか?
「情報社会を漂う素粒子」でいられる?
決まり文句によって表される型通りの感情は、パブロフの犬に見えるけど、でも本人にとっては切実なものだろう。
そして、あらゆる言葉は引用句、つまり何らかの意味では決まり文句でしか有り得ない。
では、理性とは単に決まり文句を反復する能力のことなのか?
=○=
木村敏『時間と自己』に、分裂病は記録媒体のない社会では存在しない病である、とか書かれていた。
本当かなぁ?
=○=
我々は前に書いたものをたよりに何かを語ることができる。
しかし、前に書いたものが今の自分を逆襲することもある。
例えば、1年前の偏見だらけの日記。
誰かに渡した趣味の悪いプレゼント。
恥ずかしくて悲しくて仕方ない。
今の自分との整合性を必死で探そうとしても、「成長」とかいう物語には全く回収できない。
原因も結果もわからない。
経過があるだけ。
結局「全部剥がせばその程度の人間なんじゃん」ということなのか?
意識の本質は、僕の場合虫に食われてヨレヨレになった糸のようなもので、そこにいろんな物語がこびりついているだけに思われる。
悲しくて仕方ない。
- 作者: ミシェルウエルベック,クサナギシンペイ,Michel Houellebecq,中村佳子
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/02/28
- メディア: 単行本
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花のにほひは移ろふものにはあれど…
全てが浅はかに見える夜、何をたよりにしたらいいのだ!?