博徒の眼。

競艇場の何が怖いって、死にてぇなぁ、みたいなことを思っている観客の眼の血走った冷たい眼のいろが怖いんだ。
大概1つのレースに600円かけたところで、1日負けても1万円まではいかないし、それで破産するやつなんていない。
あの無意味な轟音と振動のなか、誰かの運命に賭ける感覚って、だからこそたぶん、ニヒリストだけのものなのだ。

煙に巻く。

戦場において、誰かがいると組織の士気が下がる、という状況はよくあることで、戦争遂行のためには、当事者を消すのが手っ取り早い。
そのとき、当事者を消すのにも、皆の前で出来る限り残虐な消し方をするのが、士気向上にはいちばん効く。
毛沢東語録 (平凡社ライブラリー)わが闘争(上)―民族主義的世界観(角川文庫)
まぁ、そういった形でリンチの対象にされる気配を感じた人間は、速やかに存在を群衆のなかに消して、目立たないように振る舞ったらよかろう。
血祭りにされてからでは、遅いから。
・・・
そんなことを思ったとき、煙草は、ニヒリストにとって最強の兵器だ。
己の素性を知らせたくない相手を、それとなく煙に巻くことができる。
のらりくらりとかわしてふっと消える、その消え方を修得したいなぁ。

宇野邦一『映像身体論』

映像身体論

映像身体論

ドュルーズの弟子の著作。
ブックカバーが綺麗だから買った。印刷用紙もよかった。しかし内容が乏しかった。
映像と身体の関係性って、一見ホットなイシューだが、現象学的記述スタイル*1をとった時点で、失敗が運命づけられているような書物だった。
だって、映像体験って現象学つかうもんじゃないでしょう。
まず、趣味があまりにもスノビッシュでこんな鑑賞方法は10代で卒業していて然るべきだし、参考文献の選択センスにも稚拙さが見受けられる。

目を見はらせる特撮、すさまじい効果音、破壊、爆発、血も凍る恐怖やサスペンスは見ないときまっている。(p.22)

また、数学まわりの術語の用法が甘すぎるため、浅はかさが見え透いて痛い。
こんなもの出版するとはどういう了見だろう。まぁ手に取った俺が負けだったな。

*1:もしかして間違っている?シュッツとかフッサールとか苦手で『超越論的現象学』しか読んでないのでまちがっていたら恥ずかしい。