ツルゲーネフ『はつ恋』

はつ恋 (新潮文庫)

はつ恋 (新潮文庫)

「王女さま」にひれ伏す「青春」のはちきれそうな時間と、その終わり。

そのまわりには四人の青年がぎっしり寄り合って、そして少女は順ぐりに青年たちのおでこを、小さな灰色の花の束で叩いているのだった。(中略)青年たちはさも嬉しそうに、てんでにおでこを差し出す。一方少女の身振りには(わたしは横合いから見ていたのだが)、実になんとも言えず魅惑的な、高飛車な、愛撫するような、あざ笑うような、しかもかわいらしい様子があったので、わたしは驚きと嬉しさのあまり、あやうく声を立てんばかりになって、自分もあの天女のような指で、おでこをはじいてもらえさえしたら、その場で世界じゅうのものを投げ出してもかまわないと、そんな気がした。鉄砲は草の上へすべり落ち、わたしは何もかも忘れて、そのすらりとした体つきや、ほっそりした頸の根や、奇麗な両手や、白いプラトークの下からのぞいているやや乱れた淡色の金髪や、その半ば眠った利口そうな眼元や、その睫毛や、その下にある艶やかな頬などを、むさぼるように見つめていた。(p.13)

「みんな、女王様のまわりに、ひしめき合ってね」と、ジナイーダは話を続けた。−「あらん限りのお追従を奉るの」