広井良典『グローバル定常型社会』

グローバル定常型社会―地球社会の理論のために

グローバル定常型社会―地球社会の理論のために

「定常型社会」という未来社会のコンセプトを提唱する広井氏独自の視角による、グローバル化をめぐる論考。
とはいえグローバル化をめぐる諸論点に対する諸論点(移民流入、関税障壁、自由貿易と「食の安全」、「金融立国」、グローバル企業の工場立地etc.に対する各国政府の税金ダンピング合戦、など)に関して、広井氏の答え、政策パッケージは必ずしも明らかになったとはいえない。

失業の存在→需要(内需or外需)拡大→経済成長→労働生産性上昇→再び失業の発生

「私利の追求&パイの拡大による全体利益の増大」(成長による解決)
「時間の再配分&再分配システムの強化」(定常型モデル)

戦後日本の再分配政策
1.農地改革による土地の再分配・新制中学の義務化(戦後まもなく)
2.生産部門を通じた再分配(農業補助金地方交付税交付金、衰退産業や中小企業の保護政策、高度成長期)
3.社会保障による再分配(老人保険制度、基礎年金)
4.市場化の推進(「小泉改革」による2と3の破壊)

日本で「格差」が論じられるのは主に「収入(フロー)の格差に関してであるが、現実には資産ないしストックの格差のほうがずっと大きい(p.59)
ジニ係数にして、年間収入では0.308、住宅・資産価格では0.573
→資産税の強化?

ここから先、論者は、リカード〜ヘクシャー・オリーンの「自由貿易論」をとるのではなくマルキシズムの「不等価交換論」をとる。

A 自然をめぐる不等価交換(自然の商品化):都市−農村
B 労働をめぐる不等価交換(労働の商品化):産業化社会−前産業化社会
C 貨幣をめぐる不等価交換(貨幣の商品化):金融化社会−産業化社会(p.102)

いずれにしても、市場経済はその外部を必要としまたそれに依存している。(p.104)

「貨幣価値説」から「労働価値説」へ、さらには「自然価値説」への定着を論者は訴える。
しかし、この価値判断は先験的に導き出されるものではないよね。

文明の基本的な特質とは・・・

(A)普遍性(個別の共同体を超えた原理への思考)
(B)反自然性(自然に対する人間の優位ないし支配)(p.125)

それに対して「定常化社会」は、各々の社会の固有性と自然性に依拠した社会を基盤とする。
全体として村上泰亮の影響が色濃く投影されているように感じた。