中谷巌『資本主義はなぜ自壊したのか』

資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言
90年代末、規制緩和による構造改革を大きな声で唱えていた中谷氏が「転向」したらしい。
どこかで聞いたような話が続くが、現象をあざやかに分析する筆者一流の筆の冴えもあり、いくつか大切なことが書いてあった。

平岩委員会で活動をしはじめてからというもの、大学の私の研究室には、未知の人からの電話が頻繁にかかってくるようになった。
多くは抗議であったり、あるいは「業界の事情をご説明したい」という電話である。(p.57)

・住民の厚生を高めるため、高めの法人税やしっかりした環境規制を先進国政府が課すと、グローバル資本はそれらの整っていないところへ脱出する。

というのも、グローバル資本主義においては労働者と消費者が同一人物である必要はないからである。(p.91)

現代社会では、人は「消費者」「投資家」「労働者」「市民」の4つの異なる価値を追求する主体として生きている。
その利害は、しばしば深刻に対立する。(ロバート・ライシュが最近持ち出した分類法、らしい)

消費者:財市場における主体
投資家:金融市場における主体
労働者:労働市場における主体
市民:市場外部における主体

(グローバル資本主義によって)先進国では、消費者と投資家がグローバル資本主義の恩恵を受けることができたが、他方、先進国の労働者と市民は被害を受けた。(p.93)

・証券会社専属のアナリストなど、一部の人々や企業には、簡単に相場を操縦することができてしまう。

近代経済学の論理は、まず、完全競争の仮定のところで無理があり(情報は平等に配分されていない)、所得再分配のところでは、民主主義による再配分機能を過大に評価していると言えるだろう。また、地球環境破壊のような「外部性」の制御についても有効な手立てを提供することに失敗している。(p.111)

・「貧困率」は「それぞれの国の勤労者の中で、中位(Median)所得者が稼いでいる所得の半分以下の所得しか稼いでいない貧困者が全勤労者に占める比率」のこと。ここで平均を持ち出すのはナンセンス。

もしマイクロソフトビル・ゲイツがバーに入ってきたら、バーの顧客の平均収入は急上昇するが、ビル・ゲイツが入ってくる前からバーにいた人々は前よりも金持ちになったわけではない。(P.クルーグマン『格差は作られた』,p.91)(本書,p.300)

・いくつかの提言・・・ベーシック・インカム制の導入、国による労働訓練サービスの提供、地域社会(コミュニティ)の再生による孤独の緩和、地方分権、環境立国など。

ベーシック・インカムといったら、最近この堀江氏のブログが話題となった。
(http://ameblo.jp/takapon-jp/entry-10178349619.html)