・OTONA。
多元化する「能力」と日本社会 ―ハイパー・メリトクラシー化のなかで  日本の〈現代〉13

生命保険の営業やるくらいならニート続けるわ、というところで、友人と異例の一致。
(http://www.glico.co.jp/otona/cm.htm)
よーするに、「カツオ君」になるか「タラちゃん」になるか「イクラちゃん」になるか。
どれにもなりたくないわけなのだが、彼らの役柄は「ニート」「ワーキングプア」「セレブ」という現代の職業類型からしたら典型的な3タイプ(しかもどのタイプも「自分がいちばんがんばっている」と考えているから相容れない!)で、適当に「自己分析」「会社研究」「SPI」「マッチング」で淘汰されて、自分がそれを認めなくとも、社会的にはどれかに嵌められて理解されてしまう、という点で、まさにハイパー・メリトクラシー。笑えねぇ。

=○=
・大衆文学!
今まで避けていた「大衆文学」と呼ばれるジャンルがおもろいので、この期に及んで読書にかまけている。

連城三紀彦『戻り川心中』『変調二人羽織』『暗色コメディ』
山口雅也『生ける屍の死』『キッド・ピストルズの冒涜』
宮尾登美子『櫂』
帚木蓬生『十二年目の映像』
花村萬月『イグナシオ』
島田荘司『異邦の騎士』
佐藤亜紀『1809』
桐野夏生『柔らかな頬』
京極夏彦嗤う伊右衛門』『巷説百物語
北村薫『空飛ぶ馬』『水に眠る』『スキップ』
北方謙三『檻』
有栖川有栖『46番目の密室』
綾辻行人十角館の殺人

古今東西問わず、推理小説、ゴシックロマン、ロマンノワール、ハードボイルド、女の一代記、を集中的に読みたい。
=○=
・・山崎豊子『花のれん』
船場の御寮人(ごりょん)さんから旦那の夭逝を経て、女商売人への転身。戦前から戦中、戦後の大阪に舞った、大きな花のれん。
吉本興業創業者、吉本せいの一代記。
登場人物それぞれの人生における「修羅場」の描写の腕は確かで、おそらくこんなに凄みのある描き方、他の作家にはそうそうできない(バルザック?)ので、何と言っても、そこは必見。
・多加が29歳にして寡婦になってしまったときの、白い喪服の凄絶さ、きびしさ。
・名門の寄席を買い取ったときの凛々しさ。

「おおきに、金沢亭を譲って貰ろうた上に、女(おなご)の大阪商人やとまでいうて戴いたら、わてなりののれんを、この寄席に掲げさして貰います」(p.123)

安来節の芸人を出雲まで探しにいったときの覚悟。
関東大震災のとき大阪から食糧を買い付け、瓦礫をかきわけて落語家の見舞いに行ったときの悲愴な道行き。
・そして何といっても、類まれなる商いの才覚。
とはいえ、この作家、そんなに技巧的というのではないし、批評的というのでもない、小説によって表現したい事柄は、おそらくとても単純なので、『華麗なる一族』や『白い巨塔』のような何巻もある小説より、こういった単行本のほうがおもしろいのではないか。
ということで次は『ぼんち』を読もうかな。